マルチサービスプロバイダ環境を最適化するSIAM™️

受講コース
EXIN BCS認定 SIAM™️トレーニング
株式会社村田製作所
株式会社村田製作所
左: DIG2ネクスト株式会社 鈴木寿夫 / 右: 株式会社村田製作所 島﨑真弓さん

現在、欧米では、ITサービスマネジメント(以下ITSM)におけるSIAM™️(Service Integration and Management)モデルへの移行が加速しており、この流れは日本も例外ではありません。

その背景には、クラウドをはじめ、ITアウトソーシング、通信、サービスデスクやマネージドサービスなど、複数のサービスプロバイダから提供されるサービスを組み合わせてIT環境を構築する企業がほとんどになっているという実情があります。いまや、IT組織における最重要課題は、「複雑化し続けるマルチプロバイダ環境をどのように管理していくのか」にあると言っても過言ではないでしょう。

ITSMのプラクティスとしてはITIL®が広く知られていますが、単一サービスプロバイダとサプライヤを中心としたITIL®ベースのITSMは、マルチプロバイダ環境を最適化するとは言えません。各サービスプロバイダ間での連携が不十分なため、リスク管理は困難になり、各サービスプロバイダ内でコストやリソースを無駄に消費する可能性も高いからです。

そこで、海外を中心に新たなマネジメントプラクティスとして登場したのがSIAM™️です。SIAM™️はITIL®ベースのITSMに、サービスインテグレータという新しいレイヤを加えて、マルチプロバイダ間におけるガバナンスとサービス統合を組み込んだもの。その特徴は、複数のITサービスを企業の戦略方針に基づいてガバナンスし、サービスが最適化されたフレキシブルなエコシステムを構築することで、企業ごとのビジネスに合った適切なサービスをタイムリーに提供することを目指します。

デジタル化のスピードはとどまることを知らず、数多くのサービスプロバイダが混雑した環境にある今だからこそ、コストとサービスを最適化しながらサービスをインテグレーションする手法として、SIAM™️に注目せざるを得ない企業が増えているのです。

ITIL®を時代に合わせてエンハンスするSIAM™️の可能性

SIAM™️はITIL®をベースに発展させたものであるため、SIAM™️とITIL®を切り離して実践することはできません。単一サービスプロバイダ内では引き続きITIL®をベースにしながら、複数のサービスプロバイダを管理する際にはSIAM™️を活用することが、これからのITSMのポイントとなります。

SIAM™️は、ガバナンス、インテグレーション、コーディネーション、保証などの面で、マルチソーシング環境におけるエンドツーエンドでのサービス品質向上を実現するためのフレームワークであり、ITIL®ベースのオペレーティングモデルからSIAM™️モデルに移行するまでのロードマップも提唱されていることから、実用性の高いプラクティスであると言えるでしょう。今後、日本でもSIAM™️の資格取得を目指す人は急増する見込みで、7万人規模にまで拡大するとの予測もあります。

今回ご紹介する株式会社村田製作所(以下ムラタ)は、エレクトロニクス業界における世界のリーディングカンパニーとして早期からITSMの強化に取り組まれており、その一環として、当社の「EXIN BCS認定 SIAM™️プロフェッショナル研修」を取り入れていただきました。実際に受講し、非常に難易度の高い認定資格試験をクリアされたのは、現在、ビジネスシステム戦略企画部でITSM強化への取り組みをサポートする島﨑真弓さんです。数多くの海外拠点を抱えるグローバル企業の一員として、マルチプロバイダ環境におけるITSMに取り組む島﨑さんに、同研修の感想やSIAM™️の有効性についてお話を伺いました。

島﨑真弓さん
株式会社村田製作所
ビジネスシステム戦略企画部
IT戦略企画課
シニアスペシャリスト
島﨑真弓さん

SIAM™️プロフェッショナル研修を受講されたのはなぜですか?

 ファンデーション研修を受講した段階で、SIAM™️が当社の課題解決に役立つと感じたからです。当社は海外拠点も多く、数多くのグローバルサプライヤやベンダーと関わりがあります。さらに、社内の1部門でさえ、一つのサービスプロバイダとは呼べないほどの規模感がある。こうした環境下では、ITIL®を適用しようとしても、どうしてもうまくいかない部分がありました。そんなとき、ePlugOneのSIAM™️ファンデーション研修を受講して、「こういう考え方を組み込んで進める必要があったのか」と納得できたんです。

 ただ、ファンデーションレベルの理解では、コンサルタントなどの支援無しに組織に適用していくのは難しいと思います。たとえ支援を受けるとしても、当社がSIAM™️ベースに移行していくための議論と実践を主体的に行おうとするならば、プロフェッショナルレベルの理解が必要だと感じたのが受講の決め手です。

 また、資格を取ることで自分の発言に説得力を持たせ、社内外からの信頼を得たいという気持ちもありました。例えば、「その方針は間違っているのでは?」と思ったとして、何のバックグラウンドもなく意見しても、受け入れてもらうのは難しいですよね。SIAM™️を高度に理解した上で発言しているということを周囲に伝えることができるという点でも、プロフェッショナル認定を取得しておきたいと思いました。

実際に受講してみていかがでしたか?

 非常に実践的な研修だったと思います。リアルなケーススタディが用意されていて、レクチャーだけでなく、自分たちでケースを分析しながら議論したり、講師の方の実体験を聞けたりするのが良かったですね。グローバルに多数の拠点を持つ企業のケースは当社の組織の状況とよく似ていましたし、自社に当てはめて、本気でSIAM™️移行を進めるならどうするかと考えるきっかけになりました。

 ITSM領域に限らず、グローバルに何かを展開しようとすると、うまくいかないことはよくあるものです。その点、SIAM™️では、ステークホルダと連携しながら、最初の段階でいかにガバナンスを確立するかに重点を置き、それを順次展開に生かしていくというところが非常に多く語られていて参考になりました。

島﨑真弓さん

島﨑さんはITIL®エキスパートも取得していらっしゃいますが、SIAM™️とITIL®の違いはどのような点にあると感じましたか?また、SIAM™️は、ITIL®を時代に合わせてエンハンスするものだと思いますか?

 SIAM™️の方が実践的で、「すぐにでも使える」と感じました。ITIL®は「プロセス」が中心のプラクティスで、組織論的なところには触れられていません。そのせいか、「いかに抵抗勢力を生まずにITSMカルチャーを浸透させ、組織一丸となってプロセスを通じた改善活動を進められるか」といったノウハウは得られず、実際にテーラリングしたプロセスを適用する段階で壁にぶつかり、苦労する企業も少なくないと思います。積極的にM&Aを行っていたり、大規模で細分化された組織になるほど、その傾向が強いのではないでしょうか。

一方SIAM™️は、そのように「個々に閉じられた複数のサービスプロバイダをいかに統合し、全体にガバナンスを効かせながら一つの取り組みを進めていくのか」という部分に多くを割いている。この点がITIL®との大きな違いです。

 ステークホルダからの理解や合意を得ながら、一つのまとまりとして良い方向に向かえるよう、かなり具体的な手法も示されています。プロフェッショナルまで取得していれば自分たちだけでも実践できると感じますし、サービスマネジメント領域以外にも役立つはずです。

 もちろん、個々のプロセスにおいてITIL®が有効であることは間違いないのですが、マルチプロバイダ化が進む今だからこそ、SIAM™️のプラクティスを取り入れることでITIL®だけでは解決できなかった課題の解決にも着手できる。まさにSIAM™️はITIL®をエンハンスする知識体系だと思います。

SIAM™️の有効性や価値はどこにあると思われますか?

 知識体系(BOK:Body of Knowledge)によると、SIAM™️の価値は「サービス品質の改善」「コスト最適化と価値の増大」「ガバナンスとコントロールの改善」「柔軟性とスピードの改善」にあるとされています。なかでも、当社のように社内外に複数のサービスプロバイダが存在する組織においては、「サービス品質の改善」と「ガバナンスとコントロールの改善」が有効なのではないでしょうか。

 まず、「サービス品質の改善」で言うと、例えば、複数のサービスプロバイダ間の連携が不完全な状態で個々に閉じた運用になっていると、「サービスプロバイダを跨ぐ障害対応の旗振りは誰が行うのか?」といった壁にぶつかります。このような状態ですと、エンドツーエンドのサービス品質改善が進まず、部分的な改善を行ったとしてもエンドユーザにサービスの品質改善を実感していただくことはできません。

 また、組織が大きくなればなるほど、全体として共通の目標を持ち、同じ方向性のもとに物事を進めていくのが困難になるのは必然で、「ガバナンスとコントロールの改善」はマストになります。こうした点で、SIAM™️のような知識体系を取り入れて設計し、実装していくといった取り組みは非常に有効だと思いますし、そこに価値があると考えます。

ムラタのビジネスにSIAM™️を取り入れることで、どのような展開が考えられますか?

 SIAM™️には、「サービスプロバイダ」「サービスインテグレータ」「顧客組織」という3者のレイヤを完全に分け、レイヤごとの役割を明確にした上で、それぞれの役割にフォーカスするという考え方があります。当社でも、そういった考えを取り入れて役割を整理し、それぞれの責任を果たすような活動を進めていくべきだと思います。そうすることによって、特定の人に負荷がかかりすぎるのを防いだり、必要以上に複雑化しているプロセスを簡素化したりするなど、良い影響があるのではないでしょうか。

 また、関連するサービスの改善を全体で話し合いながら考える「プロセスフォーラム」という手法にも取り組んでいます。この取り組みでは、各位が個別最適化に走ることなく、全体を通しての良い議論が生まれたり切磋琢磨し合うようになるなど、改善活動そのものにうまくフォーカスできるといったメリットが得られます。社内でも、組織全体に横ぐしを指し、コラボレーションするような環境ができつつあるように思います。

 さらに、当社ではITSMの取り組みの一環として、来年度から本格的に全体最適で設計・開発した標準プロセスを国内外に展開する予定です。これまで、ITSM領域においても多くのステークホルダと連携してきましたが、今後はさらに連携先が増えるはずですので、ガバナンスの強化が急務になります。サービスプロバイダからのフィードバックやサービスインテグレータからのフィードバックを取り組みの戦略や方針に生かしながら、ITSMをムラタのビジネスに上手く適合するものに進化させていけたらいいですね。

SIAM™️モデルにおけるサービスインテグレータの存在やエコシステムは、今後の日本のIT環境にどのようなインパクトをもたらすと思われますか?

 SIAM™️へ移行する企業が増えていくと、今後IT人材に求められるスキルが変わっていくように思います。時代の流れからすると、日本企業の多くが、システムの内製化よりもパッケージ製品の導入やPaaS、SaaSなどのクラウドサービスの活用に積極的になるはずです。外部サービスの活用が進むと、マルチサービスプロバイダ環境におけるITSMは必須の課題になりますし、そのソリューションとしてSIAM™️へ移行する企業が増えていくと、顧客組織、サービスインテグレータ、サービスプロバイダそれぞれのレイヤで、これまでとは違うタイプのIT人材が必要になるのではないでしょうか。

 全てのレイヤがSIAM™️に則って「顧客にとって一番良いサービスとは何か」ということに目線を合わせるなら、顧客企業ではシステム開発・運用のスキルや経験のある人よりも、自社で保持すべき、戦略、ガバナンスやサービスポートフォリオなどコアとなるケイパビリティ(能力)を持った人材が求められます。同時に、サービスインテグレータやサービスプロバイダでは、個々のシステムだけを見て開発・運用したり、決められたタスクを実行できたりするだけの人ではなく、“サービス”という視点から考え、エンドツーエンドのサービスを提供するために、あらゆる立場の人とコラボレーションできるような人材が必要になりますよね。

 最終的に、各所でこのようなIT人材が育っていけば、日本企業の国際競争力も全体的に上がるはずで、そうなったら良いなと思います。

貴社のSIAM™️への取り組みは、どのようなチャレンジと成長の喜びがありますか?

 ムラタが過去数年、ITIL®を参照しながらITSMに取り組んだ結果、次の段階へ進もうとした際に直面した課題が、まさにマルチサービスプロバイダ環境におけるITSMの実現でした。私自身は直接的にITサービス提供する立場にはありませんが、こうした課題解決に向けたソリューションを提案し、サポートしていくことが自分に課せられたミッションです。

 全社的なITSMの取り組みにSIAM™️のエッセンスを取り入れることで、真のサービス品質向上を実現したいですし、ムラタならできると考えています。決して容易なことではありませんが、課題に直面しているメンバーが働きやすくなるようなサポートができたり、ムラタのITSMの進化に携われることそのものが、非常にやりがいがあって楽しいですね。

島﨑真弓さん
株式会社村田製作所 島﨑真弓さん

ご協力ありがとうございました。

今回ご訪問させていただいたのは…

株式会社村田製作所

https://www.murata.com/ja-jp

“Innovator in Electronics”をスローガンに、革新的な技術やソリューションの創出を通じてエレクトロニクス社会の進展に貢献する、世界トップクラスの総合電子部品メーカー。グローバル規模で材料から製品までの一貫生産体制を構築し、小型、高機能、薄型化など、エレクトロニクス業界のトレンドをリードする。2020年、「第49回日本産業技術大賞」では「高密度小型酸化物全固体電池」が最高位の内閣総理大臣賞を受賞。