- DIG2ネクスト TOP
- インタビュー
- エクシン・ジャパン中川社長と語るグローバルに活躍できるITサービスマネジメント人材
エクシン・ジャパン中川社長と語るグローバルに活躍できるITサービスマネジメント人材
特別対談
DIG2ネクスト株式会社 代表取締役 鈴木 寿夫
エクシン・ジャパン 代表取締役社長 中川 悦子
エクシン・ジャパン 代表取締役社長 中川 悦子
日本でITという言葉が一般的になり始めた2000年から数えて約20年。時代は変わり、クラウドサービスやDevOpsなど、新しいサービスや考え方が次々に登場しています。ビジネスITの多様化にも目を見張るものがあり、昨今では、“顧客のニーズに合致したITサービスを、いかに適切に、安定的に提供できるか”という「ITサービスマネジメント(ITSM)」が重要性を増しているといえるでしょう。
ITSMの実践には、その教科書的存在であるITIL®の本質を理解した上で、組織をリードしていけるような人材が不可欠です。ところが日本では、ファンデーションレベルの人材に比べて上位資格保持者の数が圧倒的に少ないということが、以前から問題視されています。これは、ITIL®の知識をうまく実践に生かせないという課題の要因にもなっています。このような課題解決に必要な取り組みや求められる人材などについて、ITSM等の国際試験機関・エクシンの日本法人社長・中川悦子さんにお話を伺いました。
ITSMコースで実践を学ぶ
鈴木 | DIG2ネクストは、ITIL®をベースとしたサービスマネジメントをコアとする教育とコンサルティングのサービスを提供する会社です。教育とコンサルを両輪で動かすことによって、ITIL®を正しく深く理解した上で有効に活用し、サービスマネジメントを実践できるようになるということを目指しています。その背景にあるのは、ITIL®の知識をうまく実践に生かせていない企業が多いということ。ITIL®の資格を取得する人は増えていますが、その多くはファンデーション(基礎)レベルで、いざ実践となると使いこなせていないんですよね。 |
---|---|
中川 | 確かに、ITIL®には5冊のコア書籍があり、知識量は非常に膨大です。そしてファンデーションの資格では2~3日でその内容を勉強してテストするわけですから、試験の段階では薄く広く知識を問うような形にならざるを得ません。後々、インターミディエイトやエキスパートなどの上級資格に進んで知識を深めていくような仕組みになっているので、本当に基本的な内容なんですよね。 翻って、企業で成果を出そうとする場合には、企業ごとの戦略に合わせてITSMをいかに効果的に活用しようかということを、社内の人が考えたり話し合ったりしなければ、身となり血とはなりません。しかし、業務に忙しいなかで5冊の膨大な知識を全て習得するのは困難なこと。そこでエクシンでは、ITSMにおける重要な部分だけにフォーカスしようということで、ISO/IEC20000という国際規格をベースにITSMを学べるプログラムを提供しています。 |
鈴木 | ISO/IEC20000という国際規格は、企業としてどうやってマネジメントシステムを回していくかという観点から作られていますから、そこをガイドラインに、企業としていかにITSMを導入し、つくり、使い、発展させていくかというところが教育に落とし込まれているという点で、面白いプログラムだと思います。ITIL®で定義されている用語を共通言語として会話ができるということは重要ですが、それだけでは何から手を付けていいのかわからなくなりがちです。だからこそ、適合性評価制度に基づく認証はいらないという会社でも、ISO/IEC20000をベースにしたITSM資格のコースで学んでおけば、どんな風に実践していけばいいのかということがわかるので有意義なはずです。 |
中川 | そうですね。また、ITIL®を利用して業務改善に取り組むといった場合には、会社のシニア層からのコミットメントを得ることも必要になりますが…そのハードルは高いですね(笑)。その点、企業認証を目指している場合には、シニアマネジメント層がコミットメントしていないと動かせないという仕組みがあるわけです。そうすると、現場の人たちも、どうやって上の人に問題を可視化させていけばいいのかということを考えますし、必然的に会社として取り組めるようになっていく。こういった部分が、実践として使いやすいと評価されている部分なのかなと思っています。 |
迷える現場の技術者の未来を拓くITSM
鈴木 | ITSMの深い理解は、企業だけでなく、いちプロフェッショナルとしての武器にもなりますよね。例えば、ITIL®のコースを受講された30代ぐらいの方に多い受講理由は「キャリアパス構築のため」というものです。技術は移り変わりが早く、すぐにすたれることもありますが、マネジメントには不変な部分があります。根本的な原理原則を学んでしまえば、どんな分野のマネジメントもできますし、特にエクシンブランドの資格であれば、国内はもちろんグローバルでも通用しますから。 |
---|---|
中川 | ありがとうございます(笑)。エクシンは、オランダのプロフェッショナルの方々が、ITスキルを磨いてキャリアをつくれるようにするといったことを目的に、試験機関として出発しました。ですが、オランダは小さな国ですから、オランダのプロは、ヨーロッパやアジア、アメリカなどの国外で活動することも多いんです。そうすると、いかにグローバルで通用するITプロフェッショナルをつくれるかということが重要になります。資格体系、キャリア体系にグローバルな視点が入るわけです。オランダの試験機関が、日本で認知を得ている理由というのがまさにそこでしょう。 日本で初めてITIL®が始まった2002年くらいには、ITIL®がリーチしている分野(いわゆる「運用」)で、日本で可視化できるラーニングパス、キャリアパスはありませんでした。だからこそ、ITIL®が出てきたときは、これで厳しい現場を凌いでいる人たちに未来志向のきちんとしたキャリアパスが描けると、企業の方々に喜ばれて浸透していったという経緯があります。エクシンではグローバル的に価値のあるさまざまな資格のポートフォリオを用意し、資格に紐づいた教育が企画されていますが、たまたま日本では、ITIL®関連の資格プログラムがはまったという感じでしょうか。 |
鈴木 | ところで不思議なんですが、アメリカではイノベーティブなIT技術がどんどん生まれて、メーカーも独自の資格を設けていたりするのに、エクシン社のようにマネジメントまでをも網羅した技術者向けの資格体系はありませんよね。 |
---|---|
中川 | それは、皆さん大学で学ぶからです。そこが圧倒的に日本とは違うところです。欧米は、ITに限らずあらゆる産業でマネジメントを学ぶための教育体系がきちんとあり、大学で、技術も含めたマネジメントの深いところを学べます。コンペティティブな技術を持った強いメーカー企業が多いという背景もあるでしょう。日本でも一時期はベンダー資格が非常に流行りましたね。ただ、昨今ではよりニュートラルな資格が重宝されるようになっていると思います。 |
日本のICT人口は非高度人材が半数
鈴木 | 人材という点ではどうですか?今求められている、重宝される人材。私は、やはりグローバルで通用する人材だと思っています。英語は必須として、今はマネジメントの能力も必須になっているのではないでしょうか。 |
---|---|
中川 | そうですね…例えば、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)さんの資料を見ると、日本のICT人口の半数がテクニシャン層であり、EUでは、マネジメントやプロフェッショナルの高度人材が約7割です。EUではICTのみならず産業全体の競争力を強化するため、マネジメントの役割に対応できるリーダーを増やすための施策が行われています。日本は成熟した大国であるにもかかわらずICT人口における高度人材が圧倒的に足りていないのは確かで、そんな人材を早急に育成したいと思っている企業は多いと思います。 |
鈴木 | 日本人の気質として勤勉さというものがありますし、基本的な教育レベルも高い水準で均一です。さらには単一文化、単一言語である上に、現在は変わりつつあるとはいえ年功序列、終身雇用といった中で仕事をしてきていますから、マネジメント能力を発揮しなくても、現場のワーカーに任せておけば何とかなってしまうんですよね。一方、海外ではさまざまな人種、文化、言語の人が集まって仕事をしているので、マネジメント能力こそが重要になる。必要のなかった能力ですから、意識して学ばないと身につかないでしょう。 |
---|---|
中川 | 日本における高度人材の低さの要因には、鈴木さんがおっしゃったような背景もありますが、報酬も関係しているかもしれませんね。職種によって明確に年収がかわります。大学での勉強や、更に大学院でもMBAを取るなどの自己投資をするなど、就職に至るまでの道のりがもう違っています。日本では大卒までは大小の差はあっても均一で入社し、企業が育成していくという文化です。とはいえ、昨今の状況ではそういったことも崩れつつありますので、育成システムは重要になってきていますよね。 |
三段構えの教育で学習効果を最大化
鈴木 | 私はエクシン独自の資格付与システムに可能性を感じています。それは今回、当社が日本初の教育事業者として認定をオファーしたITSMスペシャリストやエキスパートなどの上級資格トレーニングの中にも入っている「インコースアセスメント」という仕組みです。単に1回のアウトプットによって合否を決めるのではなく、受講者がどのように課題に取り組んだかというプロセスも含めて、成果物を講師が評価するというこの仕組みは、インプット&アウトプット&フィードバックの三段構え。学習効果を最大限に高めることができると思います。さらに、使用する課題(シナリオ・ケーススタディ)の設定がグローバル企業というのも良かった。レベルが非常に高く、この内容を何としても日本で教育して普及させたいと思ったからこそ、認定をオファーしたんです。日本の人がつくった課題だと、どうしても日本でしか通用しないような内容になりがち。グローバル人材を育成しようとする中で、エクシン社が世界に通用するとして作ったケースをもとに学習できるというのは大きなポイントになるでしょう。言語もカルチャーも違う、時差もある。そのような中でどのようにマネジメントしていくかという部分がクローズアップされていて、実践的だと思います。 |
---|---|
中川 | 認定教育事業者のやり方によっては、さらに実践的にすることもできるでしょう。通常、認定コースというのは教材から教える内容まで画一的で、事業者ごとの違いはほとんどないことが多いんです。しかし、エクシンの場合はオランダの自由を奪わない風土というものがありますので、骨子はシラバスとして提示して事業者はそれを踏襲しますが、それ以外のところは実践課題をつくってもらってもいいし、ゲーム形式のワークショップにするなど、実施の形式も問いません。したがって、同じプログラムでも事業者によって中身がおそらく違います。独自性を出しやすいような形になっていますので、逆に言えば事業者の品質も重要になると言えますね。 |
鈴木 | 手前味噌になりますが、我々の場合、エキスパートまで教えられる講師を自社で抱えているというのは強みになると思います。ITSMの教材に関しては全てオリジナルでカスタマイズも自在。企業ごとによりフィットした内容へ迅速に柔軟にアレンジメントできますし、ISO/IEC20000取得のコンサルティングで培ったノウハウなども生かせるので、実務に落とし込みやすいのではないかと思います。 |
インコースアセスメントとは
グローバルな視点で学べるケーススタディによって、ITサービスマネジメントの実践に不可欠なポイントを習得し、すぐに業務に活かすことができます。また、講師より適切なアセスメントとフィードバックを受けることができるため、受講者の理解度向上につながります。
内部監査の視点を取り入れPDCAサイクルを健全化
中川 | グローバル視点も重要ですが、ITSMを実践する上では、「監査・品質管理」の視点を持った人材の育成も急務ですね。 |
---|---|
鈴木 | 確かに、品質をより良くしていくためのPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを円滑に回すには、適切なCheck(内部監査)が不可欠ですが、監査に成熟した人材は非常に少ないと思います。ISO/IEC20000取得に取り組んでいるような企業でも、内部監査の有効性が低いと、全く有効な改善策が出ません。ACTを変えるキモになるポイントなのに、これまで監査の視点を教育するような研修はなかったんですよね。そこで今回、そういったスキルセットを身に着けてもらうために、内部監査の研修を新設しました(ITSMコースのみ)。監査員でなくても、現場の人たちがもっと改善できる方法はないかという監査の視点を持つだけで、仕事のやり方は変わります。コースや資格の名称は内部監査ですが、現場の方にも受けてもらいたいですね。ITSMはISO/IEC20000をベースとしていますが、監査に関してはJISQ19011:2012という内部監査のためのISO規格をベースにしているので、セキュリティの監査や別の監査などにも応用もきくということで一押ししています(笑)。 |
中川 | もう一つ、企業から求められる人材ということで言えば、“無から有をつくれる人”もそうでしょう。新しい需要を起こせるようなクリエイションができる人はどんな企業だってほしいはずです。これまでICTの人たちは、ものをつくったり運用したりするという時に、物理的にやらなければいけないことが非常に多くて時間がかかっていました。現在はクラウドを利用すると瞬時に必要なものを調達することができるようになっています。ただ、その時に調達してくるのが何かというと、それは“サービス”なんです。そして、調達してきたサービスを管理しつつ、価値ある自分たちのコア・コンピタンスを使っていかに新しいものをつくるかという時代に変わってきましたよね。 |
鈴木 | そうですね。クリエイティブといっても、単にものをつくり出すのではなく、あくまでも“サービス”が付いて回るというのがミソ。そのベースにあるのは、サービスをどうマネージするかということで、やはりサービスマネジメントの理解は不可欠です。製造業の方であっても、単にモノを作って売るのではなく、IoTなど、どういう風にモノをサービスとして売るかということを考えていますし。 |
中川 | ITSMもITを取り、言葉を整理すれば、サービスをいかにマネージするかということで、アパレルや医療など、さまざまな分野に応用が可能ですね。外資系のITIL®コースではホテルの事例が出ていたりしますから、サービス事業者にとっても有効なはずです。DevOpsのように開発と運用が近くなっているので、つくる人たちにもITSMは必要になってきますし、あらゆる場面で品質を向上し、企業価値を高めるために貢献するのではないでしょうか。 |
企業紹介
エクシン・ジャパン
オランダに本社をおき、ベンダに依存しない資格とスキルアセスメントをワールドワイドに提供する国際的な試験機関の日本法人。2005年、事務所を設置、2010年、日本法人設立。認定資格の開発、教育プログラムの策定、教育事業者の認定、試験配信をコアビジネスとしている。2017年3月21日にはDevOps Master資格の日本語試験を開始した。